【働くキョウタナビト】「株式会社タスク」代表取締役社長 中川 千代蔵さん
[2024年9月25日]
ID:106
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「印刷」と聞くと、新聞や本、チラシなど紙の印刷を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかし、少し視点を変えてみると、私達の日々の生活に欠かせないプラスチック製品にも様々な種類の印刷が施されていることに気が付きます。京田辺市草内にある株式会社タスクでは、弁当箱をはじめとする家庭用品や文具、化粧品など多岐にわたる商品に彩りと付加価値を加えるための印刷用フィルムを製造されています。
株式会社タスク 代表取締役社長 中川 千代蔵さん
特殊印刷の会社に勤めていましたが、退職後、1981年(昭和56年)に府内で創業し、家庭日用品などに加飾を施す転写フィルムの製造販売を始めました。1988年(昭和63年)に大住工専地域に田辺工場を新設、その後業務拡張のため、2013年(平成25年)に草内に移転して今年で創業44年になります。
当社では、家庭用品のほか化粧品、雑貨、文具など様々なプラスチック製品を装飾するためのロゴやキャラクターをプリントしたフィルムの印刷、加工を行っています。主に弁当箱や箸箱、水筒をはじめとする家庭用品のほか文房具、化粧品、雑貨、スポーツ用品など多岐にわたるプラスチック製品に絵柄を転写するフィルムの製造です。これは熱転写フィルムといって、写し絵のようにきれいに印刷することができます。その他、熱を加えるとフィルムが収縮する特性を利用したシュリンクフィルムも製造しており、こちらはミニチュア玩具などへの加飾に用います。取引の流れですが、印刷用フィルムやインクなどを仕入れて印刷を施した後、印刷後のフィルムを得意先に納品します。次に、納品先が加工業者にプラスチック製品への転写を依頼、商品となって量販店などエンドユーザーのもとに届きます。近年、業界の商品構成も大きく様変わりし、印刷のデザインはキャラクターが主流となっています。世界的に大人から子供にまで知られているキャラクターやアニメのほか、絵本やゲームのキャラクターなども人気があります。
【製品ができあがるまで】
1 お客様が希望するデザインを忠実に再現するため、念入りな打ち合わせを行います。
3 印刷が完了した後は、検品工程へ。
4 最後に、製品のサイズに合わせてスリット加工(※)を行い、取引先の工場へ出荷します。
※スリット加工:2、3の工程で印刷製造したロール状に巻かれたフィルムシートを適切な幅にカットし、再度ロール状に巻き取る加工のこと。
【転写フィルムを使用して加飾を行った製品事例】
家庭日用品や文具等、身の回りの様々な製品に活用されています。
取引先は、プラスチック製品の製造メーカーや企画メーカーが主流で、量販店などのエンドユーザーは1、2社です。約40社の取引先のうち創業当初からのお客様は、15社から20社ほどあります。得意先の皆様に応援いただいて今がある、大変ありがたく思っています。業種は、家庭用品、家電、化粧品、スポーツ用品、玩具、文具など多種多様で、中でも創業当時から対応してきた家庭用品の業界シェアは約35%に及んでいます。
当社の得意とする印刷は、グラビア印刷です。グラビア印刷とは、凹版印刷の一種で微細な濃淡が表現できるため、写真画像など高精度に再現できる印刷手法です。この技術によって、美しいだけでなくお客様の望むデザインを高いレベルで再現できるため、商品の付加価値を上げることが可能となっています。得意先からは、「納期対応やアフターフォローなど信頼できる」「原画に忠実な色合いと仕上がり」との高い評価をいだだいており、エンドユーザーである量販店からも、「色が明るく浮き出ており、消費者の評価が高い」とのお声をいただいています。
私の好きな言葉のひとつに「駑馬十駕(どばじゅうが)」があります。これは、足の遅い馬でも10日間休まず走り続ければ、足の速い馬に追いつけることから、才能がなくても努力すれば才能のある人に並ぶことができることのたとえですが、前述のようにお客様から評価の声をいただけるのも、小さい会社ながらも「気軽にご相談ください」との姿勢を貫き、納期や価格面での相談や他社で断られた困難な依頼に対してもあきらめることなく、可能な方法を追求してきた結果であると自負しています。近年、少子・高齢化が進む中、子供を対象にしたキャラクター製品の売り上げは、大きく影響を受けるだろうと危惧していました。キャラクター商品は、移り変わりが目まぐるしい世界です。弁当箱ひとつを例にしても、用途の観点から言えば、子供は既にいくつも持っているわけですから、新しく買う必要はないわけです。しかし、商品単価が低いこともあって、両親や祖父母が同じ用途の商品、例えば弁当箱や文具でも、キャラクター違いでいくつも買い揃える構図になっていること、子供だけではなくもっと上の世代、働く世代を対象にしたハイターゲット化によって売り上げを維持する工夫をしています。ハイターゲット化に当たっては、同じキャラクターでも水彩画タッチにするなどデザインを変えて売り出しています。コロナ禍や円安の影響により一時的に業績が悪化しましたが、直近では、コロナ禍前のライフスタイルに戻りつつあることやインバウンド需要等により売り上げが回復傾向にあります。
現在、営業3人、事務2人、製造5名の合計10名が在籍しています。繁忙期には、やはりもう少し人手がほしいですね。採用に関しては、以前は新聞やチラシ媒体でしたが、今はハローワークとインターネットを活用して募集しています。
社内教育としては、まず第一に報告・連絡・相談(ほうれんそう)の徹底です。情報を共有して社内の連携を大切にしています。経営理念のひとつである「社員の幸福」につながりますが、社員は家族と同じです。社員同士に信頼関係や「思いやり・心・和」の気持ちがあれば、業務も円滑に進められると思っています。コミュニケーションを大切に、社員一丸となって事業に取り組むことを重ねる、まさに「駑馬十駕」の取り組みを行っています。
私の営業信条として、新規開拓はいかなる状況下においても必須だと考えています。新規開拓というのは、新しい取引先を開拓するだけでなく、いろんな人と出会い、他者を知る、新しい産業や業種について知ることだと捉えています。新しい知識がなければ、他業界を知らなければ、次の展開に結び付きません。展示会についても、同業種のみならず他業種のものを見る、触れることが大事だと社員にも伝えています。材料を仕入れている大手取引先についていえば、紡績会社から違う業種へと変化しています。時代に合わせて変化しているからこそ、スキーム(枠組み)が存続しているのであり、これは大手企業だけでなく中小企業にも当てはまると思います。同じことをやっているだけでは進歩がないですし、新しい分野も開拓できません。近年の当社の新しい事業のひとつに大手スポーツ用品メーカーと共同で開発を行った球技用製品へのプリントがあります。長い時間をかけて高いハードルを乗り越え、メーカーの要望にかなう商品が遂に完成しました。売り上げも好調とのことで、大変うれしく思っています。このように、とにかくあきらめず、もっともっとという貪欲な気持ちと先手先手のスピード感が大切だと考えています。これからの時代、一層多様化が進み、石油化学産業はバイオプラスチック産業へと急速に変化していくでしょう。情報をキャッチするアンテナと知識を持ち、社会の変化に合わせて企業も変化する必要があります。また、省エネ化も進む中、小ロットで利益を出す方法がとても重要で、これが維持実現できていれば、今後も存続可能だと思っています。受注産業であることのプライドを持って、現状に満足することなく自ら欲することをやる、この業界に必要とされる会社であるためには、どうあるべきかを常に考えながら次の世代へと継承していきたいと考えています。
趣味のゴルフでも「駑馬十駕」の精神で懸命に練習に打ち込まれ、過去には195ヤードのショートホールでホールインワンを達成されたことも。さらにもう一度ホールインワンを達成することが今後の目標とのこと。
入社14年目 36歳
同志社大学在学中、商店街の活性化について京田辺市、商工会と共に活動していました。この活動を通じて地元の方と関わる中で、地元で働きたいと考えるようになりました。そんな折、商工会の方から市内に魅力的な社長がいる会社があると聞き、興味を持ったのが最初です。
会社の具体的な事業内容を聞いて驚いたのは、誰もが知っているテーマパークなどの大規模なところだけでなく、全国の土産店や100円ショップなど身近な店舗にもこの会社が関わった商品が並んでいるということでした。しかも、私が幼少期に使用していた弁当箱や浴用品もこの会社で印刷された商品だったと知り、しかも営業担当3人で全国展開していることに驚き、感銘を受けました。
現在、営業課長として関東関西を担当していますが、取引先から仕事を頂き、自分の手掛けた商品がショッピングモールや旅行先のお土産として並んでいるのを目にすると、とても嬉しく充実感があります。
アマゾンで趣味の釣りを楽しむ今井さん(右)
私たちの身近にある日用品は、様々な印刷技術に支えられています。みなさんも知らない間にタスクさんの製品を使用しているかもしれませんね。中川社長の常に新しいことに挑戦し続ける前向きな姿勢がとても印象的でした。社員の方への愛情にもあふれ、従業員の方も公私ともに充実した時間を過ごされています。今後も従業員のみなさんと共に私たちの日々の生活を彩る製品づくりを期待しております。