【働くキョウタナビト】株式会社フルカワ・メタリック 代表取締役 古川俊次さん
[2021年3月17日]
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京田辺市がある京都府南部、南山城地域は、宇治川、桂川、木津川と大きな河川が集まり、合流地点には山城盆地が扇状に広がっています。温暖な気候と豊富な地下水、多湿の風土、西陣に近いという好立地であることから、古くから地場産業として「金銀糸」の製造が盛んに行われていました。現在も国内の主な生産地となっています。
「金銀糸」の歴史は非常に古く、始まりについては、詳しくは分かっていません。金銀糸には、和紙に漆を塗り、その上に金箔または銀箔を貼った物を細く裁断したものもありますが、現在は和紙、金箔が高価であるので、代わりに、薄いフィルムにアルミニウムや銀などを蒸着させ、裁断したものが主流になっています。糸は着物や帯、金襴などの和装製品、刺繍糸として目にすることができます。
代表取締役 古川 俊次さん
昭和36年、私が小学校2年の頃に父親が始めました。この辺りは、農業以外には現金収入がない中、百姓もしていたので小屋とかもあって、機械を入れて「金銀糸業」をやってはどうか、という話が広がり、「問屋を紹介してやるで」、「仕事も紹介してやるで」と話しから、始めていった親戚が多くありました。その時に田んぼまで売って機械を購入した人もいましたが、時代の流れの中、今は4軒だけになりました。
金糸を売る側、西陣の問屋にしばらくいました。だから、今の営業のルートを知っているのです。そこで親しくなった人に、今でも金糸を売ってもらっています。平成4年に会社を継ぎましたが、その頃はまだ西陣も景気がよく、メインの取引先でした。西陣の問屋も早くから海外と取引しているところもあり、私も海外、中東方面との取引を進めていったのは、商社の方と大阪、東京、名古屋、地方の方へ営業をしていたので、海外ルートを他の人より理解していたからかもしれません。昔は帯などに使われていましたが、金銀糸の使用量も年々減少していったので、輸出の方へシフトしていくことになったわけです。
12年ほど前に商社の方とサウジアラビアに行きました。サウジアラビアは商用ビザがないと行くことができないし、向こうにスポンサーがいて、招待を受けないと行くことができない国です。商社の方が行くときは、営業する商品をいっぱいに詰めたスーツケースをいくつも持っていくので、金糸もその中の一つに過ぎませんが、商談にはなかなか繋がりません。多くの商品の中から金糸も取り上げてもらって、取引に繋がりました。サウジアラビアの正装で刺繍部分の金糸に使ってもらいました。金糸の中にも粗悪な製品、日光で変色したりするものもあり、安価、色目だけで取引を決められることも多いので、こういうことは現地に行って、実際に製品を見せ、説明を行わないと伝わりません。
ベルト型のものは、旧ユーゴスラビアの花嫁衣装ですが、このような物にも変色する糸が使われています。いい金糸はどうしても色が沈んでしまうので、鮮やかな蛍光色が入って、すごく綺麗に発色する金糸が好まれます。現物をみて、良し悪しがわからないというのは、これをただ売るだけの人、今の分を売って儲けたらいい、リピートがなくてもいいと思う人には、関係ない話なのです。見本を何点か送って、どうでしたかと言っても、何もありません。買うときだけ、これって、連絡があります。必要なことだけしか言わないから、だから、いい物ができません。こういうのに使うから、こういうのが欲しいともっと相談したら、いい物ができると思うけど、そういうのがありません。
まだまだ、こういう世界は広いし、市場はあると思います。情報が入りにくい国であるから面白いのです。観光でも行けない国だからこそ、いろいろ探したらいろんなネタがいっぱいあると思います。
サウジアラビアの正装
旧ユーゴスラビアの花嫁衣裳の一部
裁断→撚糸→綛あげ(かせあげ)→コーン巻き
①原料箔 表面は銀もしくはアルミニウム、裏面は紙を貼り合わせてロール状に巻かれている物を原料箔と言い、通常は50㎝幅もしくは100㎝幅あります。「大切り」と言う工程で幅は10㎝に裁断されたものを使用しています。
➁裁断 原料箔を裁断する機械(マイクロスリッター)で細かく切り、ボビンに巻き上げていきます。糸とボビンのセットはすべて手作業で行われます。
③撚糸 ボビンに巻かれた糸を芯糸と撚り合わせます。
④綛上げ(かせあげ) 桛枠(かせわく)に一定回数を巻いてから枠を取り外して、糸を束ねる作業です。
⑤コーン巻き 製品とするためにプラスチックのコーンに糸を巻き上げます。
⑥完成品
金銀糸=ラメ糸とも言います。ラメとはフランス語で金銀糸の他、金属箔を施した糸、または、それらの糸を織り込んだ織物の総称の事を言い、古くは金属を薄く伸ばして細く切った物を刺繍糸にしていたそうです。世界に広がる金銀糸。「相談したら、いい物ができる」「いい物を作っていきたい」とお話しされていた社長の熱意がとても心に残りました。今は海外との取引が難しい状況ですが、世界に目を向けるとまだまだ金銀糸事業は発展していくと思います。
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